星になったぺぺちゃん

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 小雪のちらつく12月の初め、一匹の野良猫が小さな小さな子猫をくわえてやってきました。

 まもなく、もう二匹の野良猫がやってきたのです。窓の外の張り出し屋根の下に、おんぼろ机が放置してあって、そこにはダンボール箱が置いてありました。

 二匹の野良猫は、夜になると小さな子猫を抱いて、ダンボール箱の中で休みました。

 最初にくわえてきた野良猫はもうどこにもいません。二匹の野良猫は生まれてもう一年ほどたっているのでしょうか、ちよっと大人の猫でした。

 お腹がすいているだろうにと、煮干しをやると、二匹の猫はじっと我慢して、小さな子猫が食べるのをただ眺めているだけでした。

 子猫が食べ終わると、その残った煮干しをやっと食べ始めたのです。でも、それを見つけた小さな子猫は、また欲しくなって、お兄ちゃん猫の口の中の煮干しまでおねだりしたのでした。お兄ちゃんは仕方なく口をあけて小さな子猫に煮干しを食べさせたのでした。

 お兄ちゃん猫がぴょんと机の上に登ると、小さな子猫も登りたくて仕方がありません。でも、いくらジャンプしても登ことができません。お姉ちゃん猫が前足を机にかけて、はしごになりました。小さな子猫はお姉ちゃんの背中をよじ登って、やっと机に登ることができました。

 ある日、そっと見ていますと、小さな子猫が、庭の細い溝の中におしっこをしていました。

 飼ってやろうよ。

 子猫はお寺で飼われることになりました。

 でも汚れているからね、と、一番初めにはお風呂でシャンプーしてもらうことになりました。掌にのるぐらいの大きさの小さな子猫は、生まれて初めてお湯でシャンプーしてもらったのです。

 ドライヤーで乾かしてもらって、居間でちょこちょこ走り回っていると、二匹の野良猫が心配そうに窓ガラスによじ登って家の中の様子を見ていました。

 次の日、もう二匹の野良猫はどこかへ行ってしまいました。きっと安心したのでしょう。 小さな子猫は、お腹がすいていたのでしょう、チョコレートも食べるし、コーヒーも舐めました。もちろん牛乳ももらいました。

 住職さんの上着のポケットにちょこんと入って、本堂にもお参りしました。いつも家族の誰かと一緒でした。
3ヶ月ぐらいのぺぺちゃん
 名前は「ぺぺちゃん」と呼ばれるようになりました。でも時々、「ぴゃんこ!」と呼ばれたり「ぺこ」と呼ばれたりもしました。

 居間とは別の部屋に行くときは、ちょっと恐かったのでしょうか、誰かにいつもしがみついていました。

 せーの!

と言われると、蛍光灯の紐に飛びついたりもできるようになりました。

 夏になる頃には、随分大きく成長しました。蝶々を捕まえたり、蝉を捕まえたり、トカゲも捕まえてきました。次の年の夏には、鳥も捕まえたりしましたが、蛇を捕まえてきては家族の前に、「ぽい!」と見せに行くたびに、家中が大騒ぎの悲鳴でした。

 住職さんが外食すると、いつも天ぷらやお刺身を一切れおみやげに持って帰ってくれたのです。

 胆管炎があるとかで、獣医さんにも通い、点滴を受けましたがすぐに良くなりました。ほかの猫と喧嘩をして、目の角膜がはがれそうな大けがをしましたが、2週間ほどすると綺麗に直ってしまいました。週に一回はシャンプーされるのがちょっと嫌でした。首輪をはずされると、お風呂場へ行くのがわかったからです。

シャンプー後の身だしなみ
 私はいつもは「ウンニャ」としか言いませんが、お風呂の時だけ「ニャーオ」と叫んだものです。

 ドライヤーで乾かしてもらっても、やっぱり自分で舐めないと気か済みません。舌が疲れるから、その日は大変なのです。

 二人のおばあさんも亡くなり、二人のお兄さんも結婚して別居することになりました。住職さんも退職して、ずっと家にいるようになりました。毎晩、二人の人間が私を取り合いっこするようになりました。 私は、一日ごとに寝る場所が変わるのです。

 時々、食卓のサンマを舐めていると、「めっ!」と言われましたが、一度もたたかれたことはありません。

 夕方になると、家の周りを散歩するのが大好きで、コオロギを追っかけるのに夢中になりました。

 夜になると、

 ぺぺー! 帰りやー!

とお母さんの喚び声が聞こえてきて、私は急いでお家に帰ったのです。

額の裏は一番安全? 月に二度、お母さんはお茶をします。部屋に赤い毛氈をひいて、お菓子も出てくるのです。私も横にちょこんと座ってその様子を見るのが大好きでした。

 家族を起こすのは私のお仕事でした。鼻を舐めたり、まぶたを舐めたり、それでも起きない時は、蒲団の上でジャンプしました。

 今日はお留守番やで

と言われると、私は玄関のソファーの上で一日中お留守番をしていました。みんなが元気に帰ってくると、ほっとしました。

 12月8日、私はガラス戸を開けて夜の散歩に出かけました。あちこち見回りをしてお家に帰ろうと道を横切ったのです。8年間の私の仕事が終わりました。首輪だけが道に落ちていました。住職さんは私の写真を大きな額に入れてくれました。

 テレビの上も、額の裏側も、お風呂場の小窓も、部屋中の至る所が私のお昼寝の場所でした。

 今はお星様になって、みんなを見下ろしています。どの星が私なのか、わかるかなぁ?

満1才頃です お兄ちゃんに抱かれて
綱渡り?も上手です 私も仕事のお手伝い?
押し入れを開けてー! 昼寝の真っ最中
私もお茶のお稽古です お散歩の途中
何かいないかなー? 外を見るのが大好き